『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』について

2024/02/04

以前SEEDの感想を書いたが、こののちにDESTINYも全話見ていた。DESTINYの感想も色々あるが、投稿はしていない。

この映画はDESTINYの視聴を前提にしているので、見ておいてよかった。


基本的に、人気シリーズの続編を名乗る作品は全く新しい敵や勢力が出てくることが多い。そのほうが既存のキャラクターを悪役にせずに済むからだろう。人気シリーズには登場人物のほぼ全てにそれぞれファンが居るものだから、だれかを悪役にしたり乗り越えられる役にすると不満が高まる。今回の作品も、ファウンデーション王国とかいう新勢力が出てきて世界の統一をやろうとしており、前作までの人たちが王国にうまく対応する感じになる。この構図の取り方はひとつのビジネスとして抜かりなくやっている感じがした。

個人的に、ラクス・クラインという人のカリスマ性が何に由来するのかマジで謎だったので、そこにうまく説明を当て込んだという意味でも、本編を補完する外伝らしくなっている。


わめき出すキラ

個人的に見どころは二つある。ひとつは、久しぶりにめちゃくちゃ卑屈になり「もう僕には無理なんだ!」とキラがわめき出すシーンだ。声優の保志総一朗の演技が本当にすごく、原作以上ではと感じた。キラはもともとこういうウジウジして歯を食いしばっているようなキャラクターのはずだった。ラクス(とかフレイ)がいたときは涼しい顔をしていたけども。異性と一緒にいい暮らしができていたら心根が劇的に変わるというものでもないだろう。

そして弱音を吐くキラをアスランが叱咤し、両者殴り合いになるわけだが、とりあえず叫びながら拳をぶつけ合うという描写を新作アニメで見られるとは思いもしなかった。もうとっくに滅んでしまった表現だと思っていた。なぜか二人の徒手空拳の動きにも心なしか気合が入っていた気がする。ほかの場面はそうでもないが、キラがわめき出してからの数分間は本当に2000年代前半を感じた。


ロボットアニメだが人間の殴り合いのほうが印象的だったのは、モビルスーツ同士の戦いだとCG技術が進化しすぎて演出過剰では? と思ってしまったこともある。水星の魔女終盤でも思ったことだが、力の強大さをアピールしようとすると、なんかすごいカラフルな魔法っぽい波動が出ているな、くらいにしか認知ができない画面になってしまう。でも接近戦があったり実弾とビームの使い分けがあったり(序盤)、ゆっくり見ればリッチさだけではないこだわりも色々あるのかもしれない。私の動体視力で追うことはできなかったが……ドラグーンシステムみたいなのはもういいです。


イングリッド、投影

二つ目は、イングリッドという新キャラクターとラクスとの会話である。イングリッドはファウンデーションの重役オルフェの秘書をしておりかつ明らかに彼に懸想しているのだが、地位にかなり差があるようだし彼には定められた相手としてラクスがいるらしい。ただラクスはすでにキラと公式のカップルなのでオルフェの強引なアプローチを袖にしまくる。そこでイングリッドはおおよそ次のようなことをラクスに言う。どうしてあなたはオルフェを選ばないのか、あの人は素晴らしいのに、お似合いなのに、云々。

こういう投影の仕方ってあるな、と思う。好いている相手と自分では恋仲になれぬなら、せめてその人は別のいい感じの人と結ばれて、その満足のうちに自分の満足を見出したい、というような。ただもちろんこの会話は精神分析ではないので、ラクスが「オルフェと結ばれたいのは貴女だろう」と返したりはしない。でも視聴者にはそれがなんとなくわかるように伏線も敷かれている。コミュニケーションには複数のレイヤーがあることがよく分かる、とてもいい場面だと思う。



その他

矢印がごちゃごちゃに絡まりあった重すぎる恋愛模様を見ていると、シン以外に興味がなく、しかし別に彼に依存しているふうでもないルナマリアの安定ぶりが目を引く。好きだけどそれが何? と真顔で言ってのけるような爽やかで健康的な情は、二次元の中では逆に貴重だったのではないか。

精神干渉(思考盗撮)に妄想で対抗するというアイデアがあったが、ノベルゲームの『CHAOS;HEAD』でまさに同じことをやっている場面があったと思い出した。このあたりの攻防は他の作品でも使われたりするのだろうか。あまり思い当たるものがない。

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